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心でつながる在宅訪問栄養食事指導が紡ぐ、患者、家族、社会復帰支援、地域との横糸

トップランナーたちの仕事の中身#106

髙山 理恵子さん(医療法人社団しろひげファミリー しろひげ在宅診療所、管理栄養士)

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 在宅診療を専門に行う診療所で、在宅訪問栄養食事指導、引きこもり・不登校児童への支援事業に取り組む髙山理恵子さん。患者の心の機微をくみ取り、栄養管理にとどまらず、心の充足を目指すアプローチについて伺いました。

出産・子育てを経て、独学で管理栄養士国家試験に合格

 医療法人社団しろひげファミリー しろひげ在宅診療所(以下、しろひげ在宅診療所)は、東京都江戸川区を中心として1,800人以上の患者を対象に24時間365日の体制で在宅医療・在宅介護サービスを提供しています。管理栄養士の髙山理恵子さんは、現在、しろひげ在宅診療所の栄養ケア部長および、しろひげファミリー~ココロとカラダのケア~認定栄養ケア・ステーションの責任者を務め、管理栄養士3人で約100人の患者への在宅訪問栄養食事指導に日々、取り組んでいます。
 髙山さんの在宅訪問栄養食事指導への情熱はこれまでのキャリアから芽生え、醸成されたものです。髙山さんは、栄養士だった母の影響から栄養士養成校に進学しましたが、卒業後、栄養士の仕事には就きませんでした。10年が経ち、出産、子育てを経験して幼少期の食育の重要性を再認識し、未来を担うこどもたちに栄養の知識を役立てたいと決意し、児童と直接関わることのできる小学校の学校栄養職員に転職しました。
 小学校に3年間勤め、より広い対象に医療関係の栄養指導ができるようになりたいと思うようになり、一念発起して仕事を続けながら独学で管理栄養士国家試験の勉強を開始し、合格を果たしました。管理栄養士として医療関係に正職員での就職を希望していましたが、実務経験がないことがネックとなり、契約社員として保健指導・特定保健指導に従事しました。順調にキャリアを積む最中、新型コロナウイルス感染症が拡大しました。
 「保健指導はオンラインが多くなり、一人ひとりに寄り添った指導が十分にできないフラストレーションから、対象者にじかに接したいという気持ちが強まりました。自分のやりたいことを考え続け、たどり着いたのが在宅訪問栄養食事指導でした」

 在宅医療を行う医療機関を調べ、見つけたのがしろひげ在宅診療所でした。以前に山中光茂院長のインタビュー記事を読んだことがあり、「病気を治すだけではなく、生活の環境や背景を考慮した上で、患者の心に寄り添うことを第一に考える院長の理念は、私の理想そのものでした。当時、しろひげ在宅診療所は設立数カ月で管理栄養士の募集はありませんでしたが、『事務職の経験があるので受付業務でもなんでも対応できる』と電話をかけ、猛アピールの末、入職が決まりました」

多職種間との徹底した情報共有

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 在宅医療の患者は生活習慣病から、がん、難病等、自宅で専門的な医療が必要なケースまでと幅広いものです。
 「入職当初は、生活習慣病や嚥下機能が低下している患者へのアプローチは保健指導の経験から心得ていましたが、がん患者、特に終末期のがん患者への栄養指導は経験がなかったため、試行錯誤の状態でした。分からないことは同行の医師や看護師に尋ね、さらに自分で調べて、1つずつ知識を積み上げていきました」
 スタッフが増えた現在、しろひげ在宅診療所では病院と遜色ない医療を提供し、介護や日々の生活のサポートをするために、毎日午前8時に全スタッフが一堂に会する朝ミーティングを行い、担当患者の情報共有をして多職種連携を徹底させています。
 「朝ミーティングとは別に、栄養ケア部では独自に毎日、在宅訪問を終えた後、管理栄養士3人が集まってその日に得た情報共有を行っています。過去に類似したケースを担当したことがある場合は、アプローチの仕方等をアドバイスし合うことで、お互いのスキルアップにも役立てています」

やり残すことのないケアの大切さ

 在宅医療を受ける患者は、自身の希望で自宅療養を選択していることが多く、独居や家族構成といった生活環境がさまざまなこと、厳しい食事制限はしたくないというケースが少なくないこともあり、病院と同様の栄養指導が通用しないことが多くあります。マニュアル化が難しいことから、患者が望むことを第一に尊重したアプローチは、管理栄養士がケースに合わせて考案、実践しなければならりません。
 「在宅医療においての管理栄養士は栄養の知識だけでは不十分で、患者がどのような精神状態なのか、何をどれだけ実践できるのかを見極めた上で、マラソンの伴走者のようにつかず離れず、寄り添うことが求められます。患者が望むアプローチの実現のためには患者の声を聴き、信頼関係を築くことがとても重要です」
 ある終末期の胃がん患者は、妻が献身的に食事作りや介護にあたっていたにも関わらず、妻への暴言が多く、すぐに怒り出していたといいます。「なぜだろうと観察すると、食欲に波があり、食べられないことへの不安が大きいのではと思いました。そこで、摂取できた食べ物を計算した栄養価を患者に見せて、『今できるベストは尽くせていますよ』と伝えたところ『そうか、そうか』と泣き出しました。栄養と食の専門家が確認したことへの安堵とともに、妻への感謝の気持ちがあふれてきたようです」
 それ以来、妻への暴言はなくなり、穏やかに最期を迎えたといいます。
 「特に最期が近い患者には、本人の希望をやり残すことなくかなえるようにしています。これは本人の喜びとなるばかりでなく、最期の時間に何もできなかったという後悔を、残された家族が持たずに済むからです。在宅医療の経験を重ねるほどに、栄養管理だけにこだわらない大事なものもあるのだと感じています」

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精神保健福祉士資格を生かした社会復帰支援

 「当診療所は、精神疾患や発達障害が原因で引きこもりになっている患者が多いことも特徴です。栄養と食に問題がある場合は、栄養指導を行いますが、精神疾患を持つ患者とは信頼関係を築いてからでないと栄養指導のスタートラインに立つこともできません。より深く疾患を理解し、適切に接する知識が必要だと痛感し、昨年、精神保健福祉士の資格を取得しました」
 引きこもりの患者が外に出るきっかけ作りのためにしろひげ診療所が展開、運営しているのが「しろひげ園芸部」、「駄菓子屋居場所 よりみち屋」です。
 「しろひげ園芸部は、当診療所で水耕栽培をしている野菜やハーブを使った食事を患者や地域の住民と一緒に調理し食べるというもので、料理作りを栄養ケア部が担当しています。よりみち屋は、誰もが立ち寄れる居場所としての機能を持つ駄菓子屋で、ひきこもり当事者の就労体験の場としても活用されています」
 今後、髙山さんはこれまで通り訪問栄養食事指導を主軸にしていきながら、引きこもりの若い患者や不登校といった悩みを抱えるこどものケアにいっそう力を注ぎたいと考えています。
 「自身の学校栄養職員としての経験、精神保健福祉士の知識を生かして、学校に行きたくても行けないこども、引きこもりの患者に対して社会復帰につながる食を通したトータルケアのあり方を探っていきたいです。また、個人的な考えですが、地域の学校の栄養教諭や医療関係の管理栄養士・栄養士と情報共有のできる横のつながりを形成し、困っていることがあれば、しろひげ診療所の
管理栄養士が代わりに出向いて対応するといったシステムを作るという夢もあります。これからも、学びを重ねながら在宅医療から地域の連携につながっていく活動に貢献していきたいと思います」

プロフィール:
2001年昭和学院栄養専門学校(現 昭和学院短期大学)にて栄養士免許を取得後、栄養士職以外の仕事を経て、2014年に学校給食管理業務に就く。2018年管理栄養免許を取得。特定保健指導に従事した後、2019年しろひげ在宅診療所に入職。現在はしろひげ在宅診療所栄養ケア部長および、しろひげファミリー ~ココロとカラダのケア~ 認定栄養ケア・ステーションの責任者として勤務。東京都栄養士会所属。

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