[an error occurred while processing this directive]
[an error occurred while processing this directive]
  1. Home
  2. 特集
  3. 健康福祉センター、病院、厚生労働省、県庁での経験を福井県民の健康づくりに生かしたい

健康福祉センター、病院、厚生労働省、県庁での経験を福井県民の健康づくりに生かしたい

トップランナーたちの仕事の中身#107

森川 渚さん(福井県健康福祉部健康医療局健康政策課、管理栄養士)

20251001_01.jpg

 自治体職員でありながら異動により、県立病院のNST専従管理栄養士、厚生労働省への出向を経験した森川渚さん。貴重な経験を生かした栄養政策の推進への貢献と行政管理栄養士として大切にしていることを伺いました。

管理栄養士として、行政も医療現場も経験したい

 福井県の行政管理栄養士として精力的に業務に取り組んでいる森川さんですが、最初から行政志望であったわけではありません。親から「手に職をつけなさい」と言われて育ち、いつからか「将来は医療分野で働きたい」という気持ちが芽生えました。医療分野に就けて、大好きな食べることが生かせるという理由から管理栄養士養成校に進学しました。そこで、公務員試験を目指して勉強する同級生に出会い、行政管理栄養士の存在を知ることになりました。
 行政の仕事にも興味を持つようになり、就職活動は医療と行政に絞って就職活動を行いました。福井県は人事異動先に出先機関である県立病院があり、行政だけでなく医療現場にも従事できることを知り、採用試験に応募、管理栄養士として採用されました。
 入庁後は嶺南振興局若狭健康福祉センター(以下、健康福祉センター)の配属となり、単独配置の管理栄養士業務がスタートしました。「分からないことばかりで、他の健康福祉センターの先輩管理栄養士に電話で尋ねることも度々でした」と振り返るほど、無我夢中の3年間でした。入庁4年目に念願の福井県立病院への異動が決まり、栄養管理室の管理栄養士として配属されました。

 福井県立病院では、主に栄養サポートチーム(Nutrition Support Team;以下、NST)メンバーとして栄養管理業務に従事しました。「以前から積極的にNSTに取り組んできた病院で、医師で管理栄養士資格を持つチェアマンからは臨床に必要な知識ばかりでなく、管理栄養士の存在意義、多職種連携の仕方、書類作成の注意点に至るまで多くの指導を受けました。福井県立病院でNSTに従事したことで、医療現場の実際を自身にたたき込む貴重な経験となりました」

厚生労働省で学んだスキルとマインド

20251001_02.jpg

 森川さんのように行政管理栄養士でありながら、医療現場で10年間ものキャリアを持つケースは非常に珍しいことです。こうした中、福井県立病院での勤務が11年目に入ろうとする2021 年、厚生労働省健康局健康課栄養指導室への出向が決まりました。「10年ぶりの行政への復帰と、厚生労働省で働くという不安はありましたが、やるしかないと覚悟しました」と森川さん。初めて聞く省庁特有の"霞が関用語"が理解できず混乱もありましたが、上司や同僚の手厚いサポートで慣れていきました。
 「配属された栄養指導室は健康づくりだけでなく医療に関わる業務も多く、病院に10年間勤務した経験を生かせるようにとの上司の配慮から、『健康日本21(第三次)』においても重要政策である『健康的で持続可能な食環境戦略イニシアチブ』の展開に加え、医療計画、循環器病対策推進基本計画といった各種計画や診療報酬改定に関連する業務等、医療も含め、現在の栄養関連施策の
基盤構築に携わらせてもらいました。病院のNSTでの多職種の活動内容、連携の仕方、書類作成といった実務経験のおかげで、施策検討の際は検討内容が具体的にイメージできました」
 厚生労働省での経験は、森川さんにとって多くの学びとなりました。「中でも大きかったのは、どのように栄養施策が進められ、どのように自治体に展開されるのか学べたことです。福井県に戻り痛感しましたが、国の施策に入っているかいないかでは、自治体で事業展開を提案する際の説得力がまったく違います。各種計画に栄養施策を盛り込むことの重要性を再認識できました」

 さらに、厚生労働省ではあきらめないという仕事への姿勢も学びました。「管理栄養士・栄養士が医療職種として明確化された医療機能情報提供制度の見直しに向けた業務に携わっていましたが、当初、制度見直しの過程では他部署からさまざまな指摘があり、あきらめそうになりました。そんなとき、上司から根拠を示して粘り強く交渉を続けるように指導を受けました。日常的に、上司や同僚が粘り強く交渉する姿勢を間近で見られたことは、行政管理栄養士として非常に貴重な経験でした。2年目は、食環境戦略イニシアチブを担当し、栄養以外の関係者と関わることで栄養に関する知識はもちろんのこと、環境対策に関する動向や制度、経済学や経営学等の社会科学も含め、幅広い領域の情報収集が必要なことを身をもって感じることができました」

キャリアを生かした福井県の健康づくり

 2年間の出向を終え、2023年に福井県健康福祉部健康政策課に帰任すると、ただちに取り組んだのが厚生労働省で携わった「健康的で持続可能な食環境戦略イニシアチブ」の福井県版組織体づくりでした。
 「2025年に『ふくい省塩プロジェクト』を立ち上げました。「省塩」とは「省エネ」とかけた福井県オリジナルの言葉です。産学官等の連携・協働により、県民の食塩摂取量の低減に向けた取り組みを進めています。その他、福井県食生活改善推進員連絡協議会の事務局を担当し、県委託事業、日本食生活協会からの事業等が円滑に実施できるよう支援しています」
 取材に伺った日は、福井県の食生活改善推進員リーダーに向けた事業所サポート事業リーダー研修で森川さんが講師を務め、「ふくい省塩プロジェクト」の概要や省塩の工夫について講義を行っていました。講義には福井県が作成したふくい健康づくり応援ガイドブックや省塩に関するチラシを使い、各支部で食生活改善推進員が新たに資料作りをしなくて済む配慮を欠かしません。
 「食生活改善推進員の活動があってこそ、県が掲げる食環境づくりが周知され、県民の健康維持・増進につなげることができます。また、食生活改善推進員から寄せられる各地域の現状は、次の施策への貴重な情報となっています」この他、厚生労働省で研究班として関わっていた令和5年度公衆衛生協会地域保健総合推進事業「誰一人取り残さない栄養政策の推進に向けた行政管理栄養士の人材育成体制構築に向けた基盤研究」について、福井県に帰任後は協力事業者として管理栄養士に向けた研修等を行い、厚生労働省が策定した施策をどのように自治体で活用していくかを実践しています。
 「人材育成に関しては、2023 年から公益社団法人日本栄養士会公衆衛生専門管理栄養士小委員会の委員として参加しています。委員である行政管理栄養士の先輩たちの検討の進め方や意見の一つひとつが勉強になっています」

ジェネラリストとしてさらなる貢献を目指す

20251001_03.jpg

 森川さんは病院、厚生労働省と経験を重ねてきたことで、行政管理栄養士としての課題が明確になったといいます。
 「健康政策は成果が出るのは数年後になることが多いため、事業継続についてさまざまな意見が寄せられることもあります。しかし、県民の健康増進につなげる視点を忘れず、広く意見に耳を傾けながら、前向きな姿勢でぶれずに事業を企画、実施していく必要があると思っています。また、ジェネラリストとして多方面の企業、人と連携しながら健康づくりを一元化するのも重要な仕事で
す。そのためにも幅広い領域の情報収集を続け、多様な関係者との調整能力、事業計画等の提案・実現能力を高めていかなければと思います。これまでのキャリアで、市町等の地域に深く関わる経験が浅いので、できれば健康福祉センターに異動して経験を積みたいです。地域を知って新しい視点を持ち、それらを糧にして行政管理栄養士として成長し続けたいと思います」

プロフィール:
2008年同志社女子大学生活科学部食物栄養科学科管理栄養士専攻を卒業。同年、福井県庁に入庁し、嶺南振興局若狭健康福祉センターに配属。2011年福井県立病院に異動し、2021年厚生労働省健康局健康課栄養指導室に出向する。2023年福井県に帰任。福井県栄養士会所属。

[an error occurred while processing this directive]

賛助会員からのお知らせ